蠅の女王

小倉涌 画家 美術家 アーティスト 歴史画

「技巧は技巧を隠す」か?絵画のイリュージョニズムとは何か? -展覧会の感想をTwilogから発掘するシリーズ(五)

 前々回、グリーンバーグやアーサー.C.ダントーの『芸術の終焉』を読んでの記事を書いたんですが、これはその追補みたいなものです。
yow.hatenadiary.jp
「技巧は技巧を隠す」とは、元は古代ローマの名言だそうで、どういう経緯の言葉なのか詳細はただいま目下大作制作中で個展が近づいてて忙しいんで、よう調べておりません(ぉぃ ひと段落したら、他の研究者の論文を探して読みたいと思いますが。
 先月、東京国立新美術館での「ルーブルの顔」展と、兵庫県立美術館でのプラド美術館展を回りまして、とりあえず、今回は「絵画のイリュージョン性」について再び、実際の観察で検証ということで書きました。前々回の時はまだ画家の記憶で書いてましたから。

ルーブル美術館展、プラド美術館展 (2018年6月)

www.ntv.co.jp
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www.artm.pref.hyogo.jp
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今日予定の変更があって時間が空くからこれ観たけど、今回は予想通り、わたし的にはそれほど…。まあ、よく運んで持って来たなあというよな、大作の大理石像もあったけどね。ルーブルの所蔵品展というのは定期的にあるが、自分の記憶では、1994年?のルーブル展のラインナップが、一番凄かった
0:33 - 2018年6月29日

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美術展回るのがめちゃ久しぶりではある。早く家帰って制作したい。ルーブルの所蔵絵画観ても「私の絵の方が良いやん」としか思わなくて、チャクラが開かない。だがきちんと観るのも勉強なんや。
0:56 - 2018年6月29日

生意気盛りですいません


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グリーンバーグにまだこだわってるから、ルーブルとプラド、一緒に感想ツイートする
14:24 - 2018年6月30日

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先ずルーブル美術館の顔展:出品内容は彫刻半分絵画半分くらいか。ここではとりあえず絵画中心に。まずベラスケスの工房制作によるスペイン王妃肖像。1652年、高さ1.8m程。ベラスケスは宮廷画家だが、細かい再現的描写はせず、一気に素早く描き上げてる。遠目で見らるのを想定してるのもある
19:50 - 2018年6月30日

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ルーブル美術館の顔展:グリーンバーグ等が後に具象絵画批判で引用した「技巧は技巧を隠す」、ここでは顔の描写に関しては大体そうだが、髪飾り、スカート裾の銀糸のモール飾りなど、同じ太さの筆で絵の具をポンポンポンと一度乗せたタッチで、「プリマ描き」と言って、筆跡を生かした描かれ方をしてる
19:52 - 2018年6月30日

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 ここでは、省力的な描き込みで済ませてある。それでとりあえずパッと仕上げたのだから、これもなかなかな職人芸と言えるだろう。たぶん、クライアントに急がされたのかも。この肖像に関しては、ベラスケス作品としてはあまり見応えの無いものだった。


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美術において「技巧は技巧を隠す」というのは、古代ローマの名言だそうで、グリーンバーグ等はこれを引き合いにして、おそらくモダンアートの戦略として、具象絵画を批判した。「絵画のイリュージョン」と言ってたが、
「技巧は技巧を隠す」「絵画のイリュージョン」という時にグリーンバーグ等が念頭してるのは、ベラスケスやレンブラント、エルグレコなどの画家ではなく、もっと後世の新古典派であるアングルやダヴィッド、ジェラールだろう
19:59 - 2018年6月30日 20:04 - 2018年6月30日

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 ジェラールの『アモールとプシュケー』は今回出品されてなかったが。何度か来日してる作品ではある。


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絵画批評を展開しつつ、これら18世紀19世紀の一部の絵画しか実際に観てないんじゃないかという問題。憶測だけど「絵画のイリュージョニズム」を発想したきっかけは、古典でなく、シュールレアリズムだったんじゃないかと。
と、先月書いたりした
20:26 - 2018年6月30日


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「絵画のイリュージョニズム」という時、念頭されてるのは、非常に限られた絵画様式をイメージしてるのみだろう、という話。もちろん、日本など東アジアの絵画はその眼中に入っていない。
20:30 - 2018年6月30日

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批評するのに鑑賞経験を積んでないのはどうなのって、四方八方に言いたいことだけど、
まあ、モダンアートの戦略としてはまぎれもなく大大成功おさめてるので、ほんと良かったね。
20:40 - 2018年6月30日

 この辺のことは前々回にも既に書いた。あくまでモダンアートの戦略として遡及的に「絵画のナラティブ」という概念をひねり出したのだ、というのが、私の推理。戦略としては強引に勝ったものの、ものいいがつくだろうという。恐らく多くの研究者が批判や分析の論文書いてるだろうし、制作が一段落したらまた論文探してみることに。


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ルーブルの顔展とプラド展の続きを。改めて「技巧は技巧を隠す」か問題を中心に。
兵庫県立美プラド展でのベラスケスによるスペイン王太子。出入り口の上に掛ける絵だったのもあり、描写がかなりザックリした省略されてる印象。馬の塗り込みも背景も「え、これで宮廷に納品出来たのか」と思ってしまう
20:01 - 2018年7月2日

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 この王太子の像はまさにグリーンバーグらが言うところの「ただの壁の飾りとしての絵」であるけど、イリュージョンというよりは、かなり省力的に描いてあって、馬の腹も、私ならもっと塗り込まないとという気持ちが湧いてくる。背景もずいぶん適当な感じがあって、ベラスケスもこういう仕事してたんだなあという印象。宮廷画家は大変ですね。


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プラド展:顔の描き方もピンぼけしたようにアッサリしている。そこは小磯良平の手法がしきりに想起された。遠目で見るだけの絵画ということで受注したとは思う。画家も長軸を付けた筆で、キャンバスに近寄らず描いたはず。今の市場での好みだと、具体的に描写されてるのが好まれる傾向にあるから、
20:09 - 2018年7月2日

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 最近のアート市場の好みだと、まさに絵画は「技巧は技巧を隠す」という、筆のタッチを消して具体的描写で平滑に仕上げられてるのが好まれるので、正直言えば、私の粗目の画布にタッチを生かす書き方もあまり気に入られない傾向があるのね。この宮廷画家の仕事は、確実にはねられるなあと笑
 

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プラド展:このフェリペ4世像にしても「これだと突き返されるなw」とすぐ思ってしまう。私のただの推測だが、王宮か何かを建造するにあたり、制作を急がせたというのもあるかもしれない。この感想、実物見ないと、画像では分かりにくいけどね。樹の描き方も「えらい荒いなあw」という感じであった
20:16 - 2018年7月2日

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 この時の「えらい荒いなあ」という感覚は、今のマーケットの趣味からしてというより、画家として「えっ宮廷で飾るのにこれで良かったのか」「これでは印象派のスケッチだな(悪い意味で)」というものである。

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プラド展:ベラスケスが、顔の描写で筆致を活かした少しピンボケ気味にするのは、彼のテクニックでもあり、ラスメニーナスもそうだし、今回出ていたこの道化の少年もそう。ここではかなりピンボケ感出してあり、まるで「プロマイドでのソフトフォーカスによる優美さ」の先駆け的なセンスを感じる。
20:39 - 2018年7月2日

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 この作品もわりにカジュアルに描かれてはいるが、上の3点とはまた違うのは、なおざり感があまり感じなかったのだ。
 ベラスケスは、長軸を筆につけて、画面から離れて描く人で、それによって具体性をぼかした描写や、花びらが揺らめくような柔らかなタッチでの描写を可能にした画家で、今回来た作品よりも良い作品がいっぱいあるからね。名誉のために申しますが。ハハハ。以前、ニューヨークメトロポリタンで観た王女の小さな肖像画(a)なんか、素晴らしかったし、ウィーン美術史美術館展で観た王女や王子の肖像画も良かった。残念ながら、ラスメニーナスは未だ観に行けていない。
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プラド展:ベラスケスのこれらの作品は1630〜1650年代で、その前、1500年代の肖像絵画で、衣服の刺繍やタッセルや鎖や宝石といった装飾を具体的に描写する様式を、これまでにも何点か観てきた。これはフェリペ2世の娘と道化の像(1585~88 Sanchez Coello)
21:00 - 2018年7月2日

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 ↑上の画像をクリックすると、プラド美術館が公開しているのを引用で頂いたもっと大きな画像が出ます。が、大きい画像で見ても次に言わんとしてることがちょっと分かりにくいかも。
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プラド展:これもこうして写真でみると超絶技巧的に思えるかもしれないが、実物を観察したら「筆致を消す」事には注力はされておらず、タッチの調子は確認できる。以前ウィーン美術史美術館のこちらの肖像(1569年 シャルル9世)も、そんな感じ。具体性は高いが筆致に関しては意識が低いというか
21:06 - 2018年7月2日

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ベラスケス、ルーベンスレンブラント辺りから、うごめくような筆のタッチを生かした絵画技法が出て来たかと。これは確認をちゃんとしたわけではないからはっきりは言えない。
21:10 - 2018年7月2日

 この辺の研究論文があるかまだ探して読んでなく、何らかな研究はされてあるはずだが、今のところ自分の推測。

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ベラスケスらは、服飾のレースの描画も5段階で言えば2くらいの省略で描いて、具体性よりも筆の勢いを優位に考えている。さっきのフェリペ2世娘やシャルル9世像でも、描写の具体性を5段階で言えば4くらい。5までは描こうとしてない。
21:16 - 2018年7月2日

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訂正、ベラスケスらは5段階でほぼ1くらいの省略かも
21:18 - 2018年7月2日

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私は「絵画のイリュージョニズム」という批評について、疑問を呈するべく、ただ今こうしたレビューをしています
21:25 - 2018年7月2日

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プラド展:1550年頃に描かれたティツアーノの作品。ティツィアーノは、筆致というより絵の具の粒子感に注力して描いてるのが分かる。Wikiで大きな画像拾ったが、それでもまだはっきり分かるものではないが、肌の明暗に粒子感があって、決して滑らかには均さず、土のようなモッサリ感を残してる
21:40 - 2018年7月2日

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ティツィアーノ、かなり厚塗りしてますね。
21:41 - 2018年7月2日

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 これもかなり大きな画像は提示されてたが、それでも粒子感やタッチの問題はほとんど伝わらない。筆致を隠すというよりも、粒子のかすれを生かした塗り込み方ですね。今風で言えば粒子のノイズw この絵の主題はどうでも良い感じではあるが、技法の美しさには惹かれた。

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プラド展:そんな一方で、1590年〜ベラスケスと同時代の1638年の作品で、筆致を消して滑らかに均して描く絵画様式も出てる。その中で有名な作家が、スルバラン。キャプションによると、プロテスタントの偶像禁止に対抗して、コントラスト強調したカトリックの宗教画画風が要請されたと。
21:47 - 2018年7月2日

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 こうした、ハイコントラストで筆致を消した絵画様式は Tenebrism というようだが、同じ Tenebrism でも、私はスルバランよりラトゥールの方が好きさ。

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コントラスト強調で、まさに「技巧は技巧を隠す」ような、当時の人は「人間の手で描かれたのか」と思ったのかもしれない。
21:50 - 2018年7月2日

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ルーブル展:ぐっと時代が下がり1700年代になると、筆致が消えてる平滑で具体性も4〜5くらいの作品が見られた。ジャン=バティスト・グルーズ、ヴィジェ・ルブラン。
ヴィジェ・ルブランは、今まで観た作品にハズレが無いというか「ピントを何処に合わせるか」という先駆的なセンスがある画家で
斜め向いてたら手前の瞳か頬骨辺りでピントが合って、あとはソフトフォーカスでボケて描かれてるという、ほんとにプロマイドの先駆けのような感性、しかも非常に技巧も高い。今回の作品は、クッションの手前のタッセルにもピントが来てて、ちゃんと距離感を考えてるんだよな。
21:58 - 2018年7月2日
22:02 - 2018年7月2日

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 この人はセンスも技術もずば抜けた画家ですね。チャラいけど。

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ルーブル展:まさに「技巧は技巧を隠す」の人が、ドミニク・アングル。これはルイ・フィリップの長男の像。背景の壁画の模様まで手抜かりなく描画の具体性は5。これは非常に構成も良い作品で、別に平滑だから・細かいからというのではなく、本当に腕の良いセンスの高い画家だなあと改めて思った
22:07 - 2018年7月2日

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 色の構成も人物描写も一片の抜かりもないなという感じであった。
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グリーンバーグが注目してたのは、グルーズ、アングルあたりでしょうね。
というお話でした!もうこの辺でお開き!制作に戻っっる
22:09 - 2018年7月2日

とりあえず今回は以上です、他にも色々見所はあったのだけど、制作に戻ります汗
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