蠅の女王

小倉涌 画家 美術家 アーティスト 歴史画

画家の私がクラウドファンドを利用して「もっとこうすればよかった」点など振り返ってみる 〜 個展『二月革命』を終えて その2

前回、自分の個展『二月革命』はいかによく出来たてかを総括?する記事でしたがw、今回は個展開催資金のためにクラウドファンド「MotionGallery」を利用して、実際何をしなくてはいけなかったか、何にどれくらい時間を要したか、他気付いた点、「もっとこうすれば良かった」と思った点など、書き出していこうと思います。
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クラウドファンドとは:ごく平板に言えば、不特定多数の人から寄付を集めて、ふるさと納税のように特典や返礼品を寄付者に送るシステム。私は美術の個展に対する寄付だったので「絵を買ってもらう」という形をとりました。

Wikipedia「クラウドファンディング」より「不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指す、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語である。ソーシャルファンディングとも呼ばれる」

芸術への助成金制度に申請しようとしていたけれど。


美術への助成に申請する事前に、作品発表をする会場と日程を決めて、契約を済ませておかないといけない

当初は、企業の芸術支援として設けてる助成金制度に申請することを考えていました。美術分野では年に数件、いくつかの企業や自治体が助成を行なっています。件数は数える程なので、タイミングの問題があります。美術分野については多くは、作品発表開催に対する資金援助、という形をとっています。「助成の対象となる事業の実施期間」が2年くらい以内に規定されていては、申請前に、会場(ギャラリー)と開催日程を抑えて、そことの契約が確定したものとして、会場と具体的な日程を書かなければなりません。なので、一番最初にすべきことは会場探しですね。

こちら側の進捗予定と、助成の対象になる決まった期間とのタイミングが合わないかもしれない

私のように、制作だけで2年以上に亘る作家だと、タイミングをうまく図らないといけませんね。制作の進捗がある程度進んだところで申請に乗り出すことになりますね。個展開催ではなく、制作期間への助成を設けてるところもわずかにあり、こちらの方が私には有り難いのですが、私の知る範囲では美術に対しては少ないかと。

推薦者を立てないといけないところもある

美術への助成全てではありませんが、営利関係にある人以外で推薦者を立てて、一筆お願いしないといけないところもあります。

基本、助成申請者には、そこそこ新しいコンピュータ(orタブレット)環境や作業スキルがあることが不文律に求められてるかと思われ。

これが結構地味にハードルになってきます。応募の企画書を作るのにExcelを指定されてあったり。

審査に通っても必ずしも最大額で貰えるわけではない

1件最大100万円までと募集にあって当選したら100万円貰えるわけではないと。しかし、助成とクラウドファンドの違いの一つに、クラウドファンドは自分による広報が不十分だと支援金ゼロの可能性もあるけど、助成は審査が通れば運営が試算した金額は貰える、というところはあります。


 私の場合、制作の途中で自分の病気があり、それに伴う家庭内の問題を抱えて1年以上気を取られてまして、気がつけば貯金残高の心配をしなくてはならないようになり、今回の個展は助成を申請しようと思い立ったのが2017年9月。11月にはギャラリーを決めて、日程が確定したのが2017年12月。考えていた企業助成の申請締切日が11月末だったので、ダメ元で日程は空白で書いて出しましたが、やはり落選。それを見送ってしまうと、他の助成でも対象となる「事業の実施期間」が更に翌年などにずれ込んでしまう。そこで個展実施を助成のために延期するより、クラウドファンドに頼ってみることにしました。

クラウドファンドMotionGalleryを選択した理由

2018年のゴールデンウィーク前まではまだ助成を考えてたのですが、前回個展からのブランクをこれ以上ひと月でも空けるのはよくないと思い、諦めました。2018年9月末からの開催は、自分で許容できるギリギリだと思ったのです。
MotionGalleryに決めたのは、


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  • 他者のエントリーで問題のある変な企画は見当たらなかったことと
  • 美術では過去のエントリー企画に、横トリ出展の企画や知ってるアーティストさんの名前があったから(ブランド信用みたいなもの)
  • エントリーの事前に審査が設けられてあったから


エントリーする前に、具体的なプランを書いて提出し、その審査に1週間はかかるかもしれない

予め審査があるというのは、そのシステムを利用する側にとっても信頼の担保ですから、ある方が望ましい。過去にいくつかクラウドファンドに出した企画でネット炎上した事件もあり、そういう企画を通してしまった運営のところでは、自分の大事な企画を載せるわけにはいきません。

クラウドファンドのエントリーも、そこそこ新しいコンピュータ環境や作業スキルが無いと困難かも。

 申し込みの時点で、ウェブ上のフォームで具体的なプランを書いて提出するようになっていました。私の場合はデザイン科出身でこうした作業に慣れてたからか、提出した日に審査が通った通知が来ました。1週間はこの時点でやり取りすることもあるかと思います。
次にウェブ上に自分のエントリーページを作らないといけないのですが、この作業に私も3週間かかりました。このエントリーページも審査がかかります。3週間かかった理由として、「リターン品」の用意に先ず手間がかかりました。それと、途中5日間親の入院がありどうしても手が止まったのもあります。また、出来ればPR動画を作るようにも促され、慣れない動画制作をしたからというのもあります。基金を利用するわけですから、動画で居住まいを正して自分で説明するのは、確かにやるしかないと思いました。

クラウドファンドのリターン品用意の大関

助成がダメならクラウドファンドを利用しようと思い立ったのは、手元に数年前描き溜めた四つ切りサイズの人物デッサン画が沢山あるからこれを利用すれば良い!と考えたからなんですが、後に、これを「リターン品」として扱うには、なかなか厄介であることにだんだん気がついていきます。ちなみに、リターン商品は申請の際に何が出せるのかある程度リストアップ出来てなくてはいけません。
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リターン品は小さめの商品が吉

 厄介というのは、品の大きさの問題です。先ず、MotionGalleryではリターン品を渡すのに郵送着払いは不可であると規定されていました。つまり、送料と梱包材込みの値段設定をしなければなりません。四つ切りという紙の規格(545 mm × 395 mm)に描いた作品を折れないように届けるには、サイズが嵩張るのです。


エントリーの際、説明として作成した図
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 折れないようにする梱包材を含めると配送での「120サイズ」になります。当初デッサンだから2000円くらいで良い、2000円なら気軽に買ってくれる人が沢山あるだろう、と見込んで見切り発車したのですが、配送料と梱包材のお金で、2000円ではプラマイゼロとなってしまう。結局4000円の値をつけざるを得ず。しかも、四つ切りというのは日本の住宅事情を鑑みれば、気軽に飾ろうという大きさでもないんですよぬ…
 私は普段から個展出品するような作品しか作っておらず、気軽に描いた小品というのは実に数少なくて、しかも安い値段設定が出来るものがデッサン意外に無い… 薄い本とかクリアファイルなど複製物を改めて製作する時間の余裕も無い… さあ困った。こんなことなら、小さいサイズの版画をやっておけばよかった。こんな後悔が湧いてきました。
 ということで、以前お願いしたことのある印刷会社に、高精度の複製を作っていただくことにしました。なかなか、普通のオフセット印刷は大抵100部単位で注文受付ですから、印刷コストがペイ出来るほど枚数捌けないかもしれない、という勘定があって、オフセットではなく、個人的なお願いで小ロットでやってもらえる高精度印刷で製作して、一部3000円という値段設定でなんとか、損を出さないようにするしかありませんでした。
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 ご自分の生活費の中から支援に連なっていただいた方々の心意気が、もう本当にありがたかったです。

出す商品の時間と手間と材料費のコストバランス

 基金と言っても、ふつうにCreemaやEtseyなど手作りサイトに出品するのと同じくらい、商品に気も使って、かつコストバランス考えないといけません。運営からは「ボリュームゾーンは3000円から1万円の間なので、ここの種類か数が多い方が良い」とアドバイスはされてました。沢山製造して安く値段つけられる小品の版画や複製物の用意するのが一番得策かと思いましたね。郵送を考えて、定型郵便物サイズとかメール便サイズとか念頭に。リターン品の準備期間、商品開発期間がエントリーする前に要る。人によってはそれだけで1ヶ月とか長くみておかないといけないかもしれません。


 あと、これはわたし的には1人でやるには勇気が要ったのでしませんでしたが、他のエントリーでは、食事会などの招待をリターン品とする企画もありました。あと、折り畳み傘やクリアファイルを印刷屋さんに発注製作してリターンで出してる人もありましたね、日用品は比較的買われ易いんじゃないかと思います。

PR動画制作の関門

 最近は動画投稿し慣れてる人も増えてるでしょうけど、ほとんどしたことがない私には、先ずデスクトップで編集出来ることにこだわったため、ウェブ上で編集出来るサービスを探し、Clipchampというウェブサービスに行き着きました。*1 どの動画編集を使えば良いか選考するだけで丸1日潰れたりしました。
基金ということなんで、きちんと居住まい正して話した方が良いだろうと考えて、台本を作り、長過ぎないように推敲し、台本を読み上げる練習を何回もし、声を録音しての滑舌のチェックし、3ヶ月髪切ってなかったから美容院へも行き。
声はなるべくハッキリ録れた方が良いので念のためスマホではなく、一眼レフの録画機能で撮りました。動画見て下さる方で消音で観たり聴覚の弱い方もいるかということで、自分の喋りを字幕で起こして入れる必要があります。字幕が入れられるのとフェイドインの効果が出来る動画編集という条件で探して、Clipchampをたしか数百円の課金で利用。
撮影は、失敗もあったので2日要しました。編集では、説明図を制作込みで3日くらいか。なんだかんだで1週間はかかるということですか、動画制作してる時に親が軽度の肺炎で入院したため、途中で作業中断せざるを得ず。
ようやく動画をアップ出来てエントリーページを審査に出し、2、3運営から注文があって修正をし、審査通過、やっとエントリーページの公開へ。


 クラウドファンドを申請するために企画を書き出したのが5月23日、そこからエントリーページが実際に公開されたのが6月21日の夜。ほぼ1ヶ月近くかかってます。この間の仕事量としては正直「多いな」と思いました。エントリーにはこぎつけず脱落する人も相当いるだろうことは想像つきました。

支援を募る関門

 支援募集期間は6月21日から10月5日まで105日間を設定。ちなみに個展は9月22日から10月6日まででした。この105日間、ほぼ自力で広報をしていかないといけません。よほど目立って伸びるエントリー企画でない限り、MotionGallery運営にそんなに度々の広報してもらうことは期待出来ません。私と同時期のエントリーで目立ってた企画というのは下の2件。
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 この短編映画製作の方は、MotionGallery運営史上一番支援金額を集めたようです。それでも、一般に映画製作にかかる資金としては多分まだ足りないような気もするけど。

SNSでの広報活動

 私は、大学の専攻が広告デザインではあったけど、それでも自分の広報活動なんてやらずに済むならやりたくなくて腰が引けてしょうがないのが本心でしたが、Twitterヘビーユーザー暦11年、はてなユーザー暦17年のSNSを生かしてなんとかやりました。内心は腰が引けてても気持ちを奮い立たせて、毎日手を替え品を替え、クラウドファンドの広報し続けるしかありません。幸い、Twitterは「スレッド」の機能が昨年12月から出来ていて、スレッド機能によってクドクド同じ文言のツイートを繰り返さずに済みました。宣伝ツイートを見飽きられないようにする工夫としては、例えば

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お返し品は、アートの場合、絵だけでは多分あかんなあと今は思う。他所の人のエントリー見たら、折りたたみ傘を作ってる人もいて、単価いくらするんかな?て感じだが、傘でなくても、付箋紙とかマウスパッド等日用品も製作して出品すべき。もうそんな発注してる時間が無いのでこのままやるしかないけど
15:33 - 2018年7月3日

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日用品は1点でも用意しといた方が、ほんま良いと思います。 15:50 - 2018年7月3日

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スレッドをたどりますと、今後クラウドファンド検討する作家さんの参考になるかとも思います。個展開催期日などにギリギリにエントリーすると、お返し品の用意が大変ですよ。あとお返し品改めて作るなら、サイズは小さく作るのが吉。運送費の問題が! 20:53 - 2018年7月3日


というように、他の方の何かの参考になるような経験談を入れていくとか、


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今描いてるこれですが、これもロシアの有名な絵画からのオマージュです。スリコフという画家の大作『モロゾーワ夫人の逮捕』。子供の時日本でのトレチャコフ美術館展で小さ目の習作で観たんですが、この絵画によって思想や信条で逮捕される政治の怖さというのを初めて学んだ、私には思い出深い絵です。 21:06 - 2018年7月5日


と、途中経過の作品写真やテーマの背景についてを書いたり


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描きながら次回の構想のことを考えてます。性風俗と法秩序的なことがテーマになりますが、アウトローに関する社会学の本も視野に。二月革命では調べるのに日数かけ過ぎたので、今度はなるべく専門家に礼金払って教えてもらうようにしたいと考えてますが、目標額オーバー or 助成金とれますように。  21:20 - 2018年8月1日


と次回の構想も決めてなんとか興味持っていただけるようにしてきました。
 あとは、何人かの方に予めクラウドファンドのTwitter宣伝の協力をお願いしていました。

募集期間の日程はよく考えないといけない

MotionGalleryでは募集終了日は、個展なり公演の終了後の設定は出来ない規定になっていました。なので準備・制作をしながら、クラウドファンディングを運営していかないといけません。
支援金はいつ貰えるか、確認して、場合によってはそこから逆算して支援募集期間を考えないといけません。募集終了後にすぐ振り込まれるわけではないのです。私の時は8週間後でした。この間に、リターンの実行を遂行しないといけません。
それと、手数料の問題。集まった支援金から何割手数料が引かれるか、確認した方がいいですね。MotionGallery の場合、目標額に達さなかった場合に手数料が発生するという規定になっていました。


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以上で、参考になりましたら幸いです。

*1:2018年6月はまだ、Mac OS10.11でこのウェブサービス使えたのに、10月後半にもう一作動画を作るためにアクセスしたら、使えなくなっていました。10.11って確か昨年にアップデートしたOSだったような。8年前に買った高価なソフトを使い続けるために最新版に替えるわけにはいかず。f:id:YOW:20181208012251p:plain