蠅の女王

小倉涌 画家 美術家 アーティスト 歴史画

展覧会の感想をTwilogから発掘する(六)デュシャンから東山魁夷まで

今年のシメに、今年行った美術展をいくつかピックアップしておきます。
なんかね、藤田嗣治展の記事を一緒にここに入れるとCSS表示が崩れるので(何がいけないのかよく精査したが全く分からない)(?_?)分離して頁を別々にします。↓
yow.hatenadiary.jp

マルセル・デュシャンと日本美術展 (2018年11月 東京国立博物館平成館)

www.tnm.jp
撮影可の展示だったので、自分のカメラで撮ったものを紹介していきます。


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デュシャン展:色んな時代の代表作をまとめて観て思ったのは、デュシャンて凄くセンスの良い人だったんだなというのが先ず。キュビズム時代の、この有名な「階段を降りる人体」ですか、これも絵画としての見応えがしっかりとあって、キュビズム絵画でほとんど初めて「良い」と思えたよ。
2018年12月5日

上:1912年『階段を降りるヌード NO.2』 下:1912年『急速な裸体たちに囲まれたとクイーン』

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デュシャン展:センスが良いというのは、ファッションセンスが良いとか色彩のセンスが良いというようなセンスの良さ。一般に広くイメージされてる「破壊した人」というのではなく、ちゃんとレイアウトや鑑賞に耐えるマチエールの美しさとかを考えてやってる人だよ。
2018年12月5日

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デュシャン展:有名な大ガラス、これも美術品として「あ、良いやん」と思わせる作り込み。当時、これが美術品だという評価は得られにくかっただろうけど、今見たら紛れもなく美術だよぬ。この裏は、錫なのかな、なんだろ。素材の良さも評価できる
2018年12月5日

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デュシャン展:大ガラス、1980年の瀧口修造東野芳明監修による復元の展示だったのね、そうだわなオリジナルは割れちゃったもんね。
東大の美術館にあるデュシャン作品も綺麗だよね
2018年12月5日

『彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも』(通称大ガラス)1980年複製、オリジナルは1915−23年


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デュシャン展:これも有名な絵画、チョコレート磨砕機なる機械が向こうにはあるらしくそれを写してるわけだが、ミクストメディアのコラージュ作品でもあるのね。非常にセンスの良い洗練された絵画。この人、まともに美術家だよぬ
2018年12月5日

『チョコレート磨砕器 NO.2』1914年

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デュシャン展:この今でいうコンセプチュアルアートになるのか、お宝の箱の作品。1935年から41年か、この時代にこんなセンス良いことをやってのけるところに、嫉妬しかないわ。三枚目のメールアートも、可愛いじゃろ。
2018年12月5日

マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による』1935 - 1941年、1963 - 1965年(内容)。シリーズF、1966年版


1915年 "The"

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デュシャン展:エロスがどうのこうの、テーマにあるそうだが、正直この人の作品からエロスの追求なんかどうでも良い感じはする(ぉい と言いつつ、私も次回テーマ、デュシャンみたいな捻り方してしまいそうで、引きずられないよう、しっかり考えないといけない
2018年12月5日



ピエール・ボナール展 (2018年11月 国立新美術館

bonnard2018.exhn.jp

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ボナール展:「ボナールって確か好きじゃないタイプの絵描きだった」という曖昧な区分だけがずっとあって、もしかして食わず嫌いだったかもしれないから観てみることにした。果たして、半分見込違い、半分自分の記憶は合ってた。作者の詳しい履歴は全く知らないが、1990年頃より前と後とで、作品が違う
2018年12月5日

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ボナール展:ボナールは1867年生まれで1990年頃だとまだ若者。1888年ナビ派という画家のグループが現れボナールはその代表的な画家、セザンヌなどを尊敬してたと。ふむほむ、この時代のモダニズム画家は、あまり好きなのがいなくてナビ派というグループについては今、ウィキペディアを参照したが
2018年12月5日

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ボナール展:セザンヌへの憧れらしきものがボナールの絵に表れてから、それまでの絵にあった幸福感が見られなくなっていった。私にとっては、ボナールによるモダニズム絵画としての試みは退屈で、基本的にアーティストとしては特異な人でもなかったのに、背伸びしてるように思えた。
2018年12月5日

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ボナール展:若い時代の彼の作品の良さは、対象に対する個人的な細やかな情や愛がにじみ出ているところにあった。多分、それほど腕の立つタイプの絵描きではないし、セザンヌデュシャンのように目から鼻へ抜けるようなセンスもないし、異彩を放つ人ではなく
2018年12月5日

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ボナール展:本来は、日常の細やかなことや幸福感によってしみじみとくる絵を描いていたタイプではなかったのかと。そういう意味では私の中ではどこか藤田嗣治に通じるものがある。この自分の妹を描いた絵なんかは本当に、良い絵だった。ブラウスのいかにも愛らしいローズ色、藤田も好んだ色だったな
2018年12月5日

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ボナール展:ローズ色と白色の対比が美しいブラウスの描写。スカートの赤と背景の緑が暖かい。人物描写も良い。特に顔や手の描き方に対象への愛がこもってる。生成色の下地を活かした柔らかなタッチ。絵の幸福感が微笑ましい
2018年12月5日

上:1892年『格子柄のブラウス』 下:1890年『アンドレ・ボナール嬢の肖像、画家の妹』

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ボナール展:画家本人と恋人との事後を描いた絵。人体のデッサンの未熟さが目につく。背景の壁が暗いワイン色で、そのワイン色を肌の影として活かし人物を浮き立たせて描こうとしているが上手くない。しかし、格子柄のクロスとその上に乗った仔猫2匹の後ろ姿を置いた、左下部分は素晴らしく成功してる
2018年12月5日

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ボナール展:この恋人との自画像、左下隅なんかは、フェルメールのいわゆる「光の粒」を彷彿とするようなこころみをあいてあって、それが美しく描かれている。少し差し色でサーモンピンクを置いてるのもちゃんと効いてる
2018年12月5日

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ボナール展:1893年の小品。単純化したシルエット的な人物造形だが、温かい柔らかなタッチで、少女の可憐さがよく表現されている。先程の3点もそうだが、画家が楽しんで描いてるというのが伝わってくる。絵の具を塗るのが楽しい、自分が愛おしいものを形づくるのが楽しい。
2018年12月5日

1893年『黒いストッキングの少女』

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ボナール展:1891年から97年までのグラフィックデザイナーとしての仕事の展示もあったが、人物のデフォルメの下手さが目につく。構成もさほど変わったところもなく
2018年12月5日

上:1894年リトグラフ"La Revue Blanche " 下:1891年リトグラフ”France - Champagne"

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ボナール展:1907年から1935年までの水浴する裸婦像のシリーズが一室で集められていた。ここに至るとセザンヌからの感化は見てとれるが、画面には、かつてあった絵の具へのフェティッシュがもう無い。裸婦といってもあまりに変哲の無さで私にはもう、どの絵が掛かってたんだか、印象に残ってない。
2018年12月5日

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こういうのは実物の画面を見ないと、画像では確認できることでは無いんで
2018年12月5日

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ボナール展:あ、そうだ、ポスターにあった丸テーブルに人物と猫の絵とか、1905年から43年にかけての家庭内の日常を描いた作品群も、なんかパッとしない。一つに、絵の具へのフェティッシュが無いからだろなあと思ったりする。絵画としての見所が無いというか。元々巧い絵描きでもないからなあ
2018年12月5日

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ボナール展:風景も同じく、どの絵だったかもうよう分からん。記憶に残ってない。
この時の新美術館特別展は、記憶に残らない絵頂上決戦をやってたのだろうか?
2018年12月5日



東山魁夷展 (2018年11月 国立新美術館

bijutsutecho.com

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先ず東山魁夷展感想から。すごく有名なのに自分の中で印象がまるで無い、つまりこんなに記憶に残らない画家だったのかと今回改めて気付かされた。私の脳内では「何で評価されてるのかよく分からないアーティストランキング」というのがあって、新たに彼の名が刻印された。
2018年12月4日

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東山魁夷:遠くから見ても近づいて見てもなんの工夫も見えてこないのが特徴のような風景画。といってオーソドックスというではないし、とにかく愚直に描いてるんだ、に尽きる。愚直って、私にとってはただの批判用語
2018年12月4日

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東山魁夷展:殆どのミュージアムが休館日の月曜日に東京にいたから入って観ただけで、そうでなかったら一生観ることもない機会、といえる。ただ、一点良いなと思ったのが、代表作の唐招提寺障壁画。
2018年12月4日

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東山魁夷唐招提寺障壁画、鑑真和上にちなんだ風景画になっている。鑑真が布教のため海を渡って唐から日本に渡って来たが、何度も渡航に失敗して船が沈み、仲間も殉職し、自身は失明までしたのは、皆さん学校で習ったでしょう。
絵の描き方としては素直で特に特徴的なものはない。全体の構成は的確。
2018年12月4日

1975年 唐招提寺御影堂障壁画『濤声』

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東山魁夷:鑑真ら渡来僧の布教のための営為、東アジア初期の仏教の戒律への厳格さ、そういった背景がちゃんと絵画になってる。描く意味さえ与えられたら、こんなに良い作品が描けるのだ、ということ。誰かが「その絵」を描くことにちゃんと由縁があることの良さがこう端的に出た作品も、珍しいのでは。
2018年12月4日

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東山魁夷:鑑真に由来する作品を唐招提寺の障壁画としてオファーされる、美術としてはこれ以上ないサイトスペシフィックで、的確で極シンプルな構成で、素朴な絵描きが仕事をして、結果的に成功しているというこの状況。これを観られただけで、入って良かった展覧会であった。
2018年12月4日

 
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可愛いは作れるのと同じように、作品を作る由縁も努力したら作れるの
2018年12月4日

ほんま。



平家物語 一の谷・屋島合戦図屏風 複製展示(2018年11月 東京国立博物館

www.tnm.jp

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東博で、大英博物館所蔵の平家物語合戦図屏風の複製の展示があった。そうとは知らずに入ったが、ガラス無し、近くに寄って細かい描写を観られるためことのほかこの良かった。オリジナルをスキャンしてデジタルデータにして、その上に金箔を施している。今の高精度のインクジェット印刷は侮れんからなあ
2018年12月5日

画像をクリックすると、キャプションの字が読める大きさが表示されます

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東博:この合戦図屏風、構成も細部の造形も素晴らしい名品だが人物も騎馬も小さく描き込まれているため、オリジナルの展示だとあまり近寄って観ることは叶わないから細部は視えないわけで、この複製による展示は意義深いと思う。照明は行灯のように温白色で下から照らし、時々明るさを落とすという演出
2018年12月5日

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東博:ま、ぐっと近寄るとこれは印刷だなというのはわかる、絵描きならば。東博GJって、アンケート用紙には書いて出しといた。
2018年12月5日

 キャプション見たら分かるのだが、屏風をスキャンしてデジタルデータにして高精細出力後、箔工芸の職人さんによって金箔をほどこしてある。かなり近くで観なければ、全く遜色がない出来栄えだった。こうした文化財障壁画の高精度のダミー展示は、京都の寺院でも行われていて、景観に遜色が無ければ全く問題ないと思うし、むしろ拝観者も多くなった今、我々も安心出来るので賛成だ。

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今回は以上で。ではでは。