蠅の女王

小倉涌 画家 美術家 アーティスト 歴史画

個展『マッカーサーの子供たち』を終えて。

 11月22日から27日まで、東京京橋の「GALLERY b.TOKYO」で、『マッカーサーの子供たち』というタイトルで個展をしました。
 美術関係と、はてなTwitterでのフォローさんをはじめ、予想していた以上にたくさんの方にお越し頂きまして、本当にありがとうございました。


 また、急遽、今度の文学フリマ参加の『筑波批評2010冬(充電中)』の中で、個展の事が座談会で取り上げられる事になりまして、面映いばかりです。

また、やっぱり座談会もやろうということで、急遽開きましたw

去年の夏・冬両号で表紙を描いていただいた小倉涌さんの個展「マッカーサーの子どもたち」と、劇場版『マルドゥック・スクランブル』について話しています。

前者では絵画的なフィクションとは一体何か、後者ではサイバーパンクSFとの関わりや最近の冲方丁現象についてが、主な話題となっています。


開催日   2010年12月 5日(日)


開催時間  11:00開場〜17:00終了 開催時間1時間延長決定!


会場    大田区産業プラザPiO 大展示ホール・小展示ホール


アクセス  京浜急行本線「京急蒲田駅」徒歩3分

     JR京浜東北線、東急池上・多摩川線「蒲田駅」徒歩13分


入場無料


筑波批評は、ア−09(2階 小展示ホール)

マッカーサーの子供たち」というタイトルながら、「再現絵にはしたくない」というYOWさんのコンセプトのもと終戦直後の日本が描かれています。アカデミックの領域からネタを引っ張ってくるのが得意な方で、ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』 小熊英二『民主と愛国』などに興味のある方は非常に楽しめたのではないかと思います(もう個展は終わっちゃいましたが)。座談会では「絵画にしかないフィクション」という軸に沿いながら、ミズーリ号の絵と権力の二重性、そのフィクション性などについて語っています。

頂いたご意見の数々

 私やギャラリーオーナーに話しかけられた方のほぼ皆さんから、激励や好評を賜りまして、本当に勇気づけられました。また、多くの方が作品の内容に関心を持って下さり、ご質問が多かったのも今回の特徴だったと思います。
 ギャラリーオーナーの小林勝さんによれば、開催前からこのタイトルによる反響が大きかったと聞いています。長いブランク期間後の油画テンペラによる作品展はこれが初めてであり、未だキャリアの浅い私なので、どこまでよく考えて「戦後」や「戦争」や「政治」に向き合って描いてる人間なのか、ご興味を持っていらして下さった方も多かったようです。特に、戦中戦後を多感な少年として過ごされた世代の方からは、作品を前にして当時を振り返るお話を伺えました。中に、伯父さまがGHQに雇われて文書を検閲する仕事をしていた、というお客様がいらして、作品展の構想にあった「日本人によるマッカーサー宛の数多くの好意的な手紙」というのは、あれは検閲して好意的なものだけ元帥に渡していたのだ、というお話をして下さいました。
 また、やはり現代史に関心のある若い層の反響も良かったのに、とてもホッとしています。


 会期中に頂いたご意見は以下の通り、他にも色々ありました。

      • 非常に冒険的、挑戦的な内容である。今の美術界では稀なタイプ。
      • メッセージとはまた違うスタンスによるポリティカルなテーマを扱うところが面白い。
      • 着眼点は面白いのだが、こうしたポリティカルなテーマを、どう美術関係者に向けてアピール出来るかが今後の大きな課題になるだろう(今のところ、アート界ではなく社会学等特に言論や研究に携わるような人に見せる事を想定した表現をしているので)
      • ミズーリ艦の構造物と兵士たちの遺影との「鋭いせめぎあい」が出ていない。
      • マッカーサー昭和天皇の写真を見た時の複雑な思いや、戦後の不安だった気分が蘇ってきた。
      • もっと大サイズの作品を発表すべき。
      • 筆が達者で、構成も巧い。今後もっともっとシナリオを練った作品展を。画肌はもっと磨くべき。
      • 内容的に、中村宏さんの系譜について考えたりした。
      • 窓の外の群衆のプラカードや遺影が並んでるところを、今度はネット社会のアイコンのアナロジーとして考えていったら面白いのではないか。


 次回東京での作品展も同じGALLERY b.TOKYOさんで【マッカーサー」をテーマに掲げてやりたいと思ってるのですが、特に4番目のご意見の「ミズーリ艦の構造物と兵士たちの遺影との『鋭いせめぎあい』が出ていない」の課題についてクリアした「ミズーリ艦」を改めて制作したいと思っています。
 戦艦ミズーリをモチーフに選んだ経緯は前回のダイアリーで書きましたが、この甲板で、ポツダム宣言と日本側への連合国回答を含む「降伏文書」の調印式が行われた訳ですが、降伏文書が帝国憲法から日本国憲法発布までブランク期の最高法規だったというのを『ホーンブック 憲法』という本で知ったのがキッカケでもありました。この「最高法規であった」事をなんとか工夫とアイディアで絵としてしっかり出せれば、ポートレイトと艦の構造物とのいわゆる「鋭いせめぎ合い」が出るのではないか、とも考えています。そして、テーマとして「敗戦と占領統治」のイメージをより前面に出した表現になるのかな、という気がします。
 次回東京での発表はおそらく1年半〜2年後になるかと思いますが、また課題を色々クリアして作品をお見せ出来ればと思います。