蠅の女王

小倉涌 画家 美術家 アーティスト 歴史画

今日は、作品の技法といつも使ってる画材、制作道具をさらしてみる。

 11月あたまにART TAIPEI 2014こと台北國際藝術博覽會に出品、私も台湾に渡るのですが、その前に、テンペラという日本国内では珍しい技法を使ってるため、よく質問をうけるので、こちらでも書いておこうと思い立ちました。


 私の技法は正確に言うと500年以上前に西欧で確立した、テンペラと油彩の混合技法(mixed media of tempera and oilcolor)と言いまして、いわゆるルネサンス三大巨匠が登場する”前”の画法です。この混合技法が確立した時代の作家で、ヤン・ファン・エイク(ヤン・ファン・アイク)や、ハンス・メムリンク、ハンス・ホルベイン(ホルバイン)などが有名です。




『アルノルフィーニ夫妻像』ヤン・ファン・エイク(1434)


 テンペラとはつまり絵の具の媒剤(メディウム)の種類のことですが、媒剤を自分で調合します。私は油彩の溶き油も自家で調合して顔料とで「手練り」した絵の具を使ったりします。市販のチューブ絵の具も併用してます。
 テンペラメディウムは卵、カゼイン、鑞を使った種類がありますが、私は主に卵テンペラ、時々カゼインテンペラを使用します。卵の場合、調合の仕方は作家や教書によって更に違ってきますが、とりあえず私は卵白と卵黄両方混ぜる方法を採っています。(中世のイコンで卵黄のみのテンペラで描かれた物が残っています)分量は佐藤一郎さんの本でのやり方を採っています。(ちなみに、大学はデザイン科を出たので、卒業後にテンペラ油彩を独学で習得しました)

絵画技術入門―テンペラ絵具と油絵具による混合技法 (新技法シリーズ)

絵画技術入門―テンペラ絵具と油絵具による混合技法 (新技法シリーズ)

 テンペラ油彩混合の利点として、油彩のみより画面が堅牢であること、シャープな描画がし易いこと、テンペラが速乾性のため描き進め易いこと、というのがあります。逆に油彩より不利な点として、乾いたテンペラは柔軟性が無いので木枠に画布を張った通常のキャンバスでは描けないというもの。なので、パネルやパーティクルボード、厚みのある合板ベニヤに描かなくてはいけません。つまり大作をやるとなると、キャンバスよりも重量が嵩みます。合板ベニヤも無い昔は、樫などの木材の柾目の板に描かれてました。




私の場合は市販のパネルに画布を張っています。画布は船岡のドーサ引き生キャンを張って、クサカベ・ジェッソで下塗りをします。
フナオカキャンバス:http://www.funaoka-canvas.com/





これは1236年に描かれたイコンだが、板が経年で反っている。ベニヤやパーティクルボードの登場する前の板絵は、このように歪みが生じてるものが多い。



 自家で調合したテンペラ媒剤は瓶に入れて、腐らないように冷蔵庫にて保管します。卵1個につき500mlほどが出来て、私の場合はそれを1年くらいで使い切るペースでしょうか。絵の具としては作り置きはせず、少しづつ練って早目に使い切ります。


樹脂も固形物を買って自家で溶解させて、保存してます。油彩用の溶き油も調合して瓶に。光で黄変するので、黒い画用紙で瓶を包んで置いてます。



 古典画法の混合技法では、テンペラと油彩を役割分担させて描きます。テンペラはモデリング、つまり立体感と量感を出すため。油絵の具で影部を深めるのと彩色とをします。なので、テンペラ絵の具としては、もっぱら白色顔料(チタニウム・ホワイト)を使います。ちなみに、彩色では、絵の具の混色はしません。日本画と同じように、層の重ねによって色をコントロールしていきます。


制作途中の写真。これで15%くらいの進行過程。固有色を塗るのはもっと後。

追加関連記事:「テンペラ油彩混合技法の人物画途中経過



 絵の具の手練りには、顔料を買います。自分で粒状に砕くという作家さんもいますが、私は市販のを購入しています。イタリアのZECCHIというブランドでは土系や黒の色も豊富で、私は土系をよく使うので、気に入ってます。( http://www.zecchi.it/


ホルベインやクサカベの顔料もある。粒子の粗さが欲しい時は日本画の岩絵の具も使ってますが、天然ものは油で化学変化起こすので人工ものが良いそうです。



 絵の具を手練りする際、時間かけてじっくり練るタイプの作家さんは大理石かガラス製の「練り板」を使いますが、私はもっぱら皿でペインティングナイフで練り合わせる程度です。パレットも使わず、100円ショップのオーブン皿などを使用してます。絵の具が残ったら、サランラップをかけます。



 市販の絵の具もよく使います。気に入ってる油絵の具ブランドは、ドイツの「ムッシーニ」、オランダの「レンブラント」、日本の「クサカベ」の「ミノー」です。



 市販絵の具と手練り絵の具との違いですが、手練りでは、粒子の肌理を好みに調整出来るのと、顔料が油をよく吸うので堅牢性を高められるのと、描いてる時にモッサリ・シャリシャリした粒状の感触が楽しめるのとw 手練りは、他に言葉では表現しにくい効果が、まあ色々とあります。市販と手練りと、効果を考えながら使い分けをしています。
 

 筆は、テンペラのモデリング・ハッチングでは、NostというシリーズのPR017で描いています。

 Nostシリーズはナイロン製ですが、穂先のまとまりが非常にシャープで、細い線が描き易い筆です。時々、豚毛の筆でも描画します。
 透層(グレーズ)では、柔らかい毛質でないと綺麗に塗れません。私は、名村と中里の水彩筆がお気に入りです。
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 ただしこれらは、油彩用でなく水彩用の筆です。色々使ってみて、ここに落ち着いてます。


 私の作品にはよく建造物が描かれていますが、3DCGのShadeというソフトで模型を制作して、それを描き写しています。これは、銀座の和光ビルを描いた時の模型です。



2012年の個展での出品作。



参照:http://d.hatena.ne.jp/YOW/20121105/p1
『今日の歴史画 -私は何を為すべきではないか-』

 構図を決める時も、Shade上で考えています。



 うーん、とりあえずこんなところでしょうか。水彩絵の具で描く時はまた色々あるんですが、まあ今日はとりあえずこれにて。さよなら、さよなら、さよなら。

関連記事:『配布資料:古典画法油彩作品の断面図とテンペラの説明』http://d.hatena.ne.jp/YOW/20151227/p1